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一般公開

#家族信託の潮流

第9回 家族信託のための信託登記とは何か(その4)

一般公開期間:2026年4月1日 ~ 6月30日

※当記事は2026年4月の内容です。

 今回も、前回からの続きです。家族信託の組成の最大の担い手であると言われる司法書士による信託契約書作成から信託目録に記録すべき情報の抽出と要約、そして、信託登記申請に至るプロセスについて、分析的に論じていきます。なお、弁護士の人々とお話する機会があると、不動産信託における信託登記中の信託目録こそ、どのような基準で作成されているのか、よくわからないブラックボックスである、という意見を聞くことがございます。
 果たして、明確な法的根拠に基づく基準はあるのでしょうか。あるいは、実は、客観的な基準など存在しないのでしょうか。

法律整序書面の作成

 家族信託の取扱割合が士業者中で一番であるとされている司法書士の人々が信託契約書の起案に関与する場合を考えてみましょう。それは、信託関係者の合意が行われた後に、将来の紛争の予防のため、合意された信託行為に基づく信託の効果を保全することです。そして、それを信託の効果の対抗要件である信託登記の申請の登記原因証明情報として、更には将来の訴訟における書証とするために、信託契約当事者間の合意を、その真意を確認しつつ、契約用語を用いて、法律条文に当てはめて、法律整序をして書面を作成することです。

 なお、法律整序事務としての信託契約書の作成業務は、決して、司法書士や行政書士(ここは弁護士以外の士業者という意味です)が、信託当事者の意思形成の中に入りこむようなことをするわけではないと個人的には思います。司法書士や行政書士は、実務上、弁護士法72条を留意することから、直接的に信託当事者の合意形成に関与することは意図的に避けているのではないでしょうか。それは、信託契約の当事者間における合意形成を調整するわけでも、誘導するわけでも、主導するわけでもないということです。

 とりわけ、都市部の司法書士の場合、簡易裁判所関係業務及び登記代理業務や後見人業務以外については、本人の意思表示に強度の影響を与える代理的な関与形態を避けて業務を行っていると思います(むしろ、都市部の司法書士の立場からも、相談者さんに対して積極的に責任を負うようなディープな関与はやりたくないという表現が妥当するでしょう)。

 あくまでも、司法書士法上、司法書士(ここでは司法書士のみを指してます)の意義は、信託当事者の間に成立した合意に基づき、それを法律整序することで、そのような合意を保全する書面を作成し、法務局、裁判所、検察庁という三庁に提出することになるであろう書面を作成し、手続の進行を支援する存在であると思います。

 ところで、家族信託の研修会にて元公証人の著名な弁護士さんから伺い、弁護士法72条の規準の境界線の話で興味深かったのは、ガイダンスはOK、しかしアドバイスはアウト、というお話でした。この辺りの肌感覚は、家族信託のコーディネーターの方々による相談者さんへの話し方や接し方などの振舞い方の参考となるかもしれませんね。

その他の信託の条項

 不動産登記法97条1項11号は、「その他の信託の条項」を信託登記の登記事項であると規定しております。そのような概括的な規定ですので、登記代理の資格者代理人である司法書士を悩ませる規定ぶりです。この点、信託法が改正されて、旧31条が現行27条に変更されたことによって、一応、実体法上の効果とは切断されたと解釈することもできるので、信託条項の中でも、不動産登記の手続的な事項に関連する事項だけを記録するという形となっております。

 そこで、資格者代理人は、信託登記が行われている不動産に対する後続登記申請の可能性を想定して、後続登記申請の要件あるいは公示すべき重要事項に関係していると評価できる信託条項を選択し、そこから要件・要素を抽出して、公示の作法に即した形に要約することで、信託目録に記録すべき情報を作成します。

 それによって、資格者代理人である司法書士は、将来、当該信託不動産及び当該信託に対して、必要となるであろう全ての種類の登記申請について、そのような登記申請が円滑に受理され、登記が実行されるように保全する機能を担っております。それは、司法書士の善管注意義務であり、法令実務精通義務の内容となるわけです(司法書士法2条)。

(職責)司法書士法2条 司法書士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない。

 ちなみに、後続登記申請に関連する重要事項を選択し、抽出して要約するという信託目録の作成に関する規範と手順(作法)は、過去において本連載の筆者が独自に考えたものであり、法令上の明文や通達等の行政法規による根拠はございません。このような筆者の発想は、登記代理人の専門家責任論として、将来の登記申請権を保全する必要があるという立場からのものです。ですので、公示からする発想ではありません。

 もっとも、最近、筆者も、専門家責任としての将来の登記申請権の保全という機能論的かつ動的な観点だけではなく、第三者に対する公示を要する事項という観点も重要ではないか、とも考えるように至っております。例えば、賃貸借の登記の特約事項に関する記録例などを見ても、必ずしも後続登記申請に関係しない事項を公示するような場合があるからです。さしあたり、本連載では、筆者が今まで理論化してきた「将来の登記申請権の保全」という機能論を中心として描いていくことにしましょう。

後続登記申請の想定―信託の変更

 ところで、当該不動産に対する信託登記に遅れる後続登記申請とは、信託登記が実行された後における、当該不動産に対する、あらゆる種類の登記申請の可能性を包含する概念です。繰り返しになるようですが、信託登記の分野における後続登記申請概念は、15年くらい前に、本連載の筆者が『信託登記のための信託目録の理論と実務』という解説書の初版を作っているときに、説明の便宜のために工夫して考え出した概念です。当時、信託目録に関する解説書が皆無である中、読者に理解してもらうために、後続登記申請の他にも、後行登記申請など色々な概念を工夫してみました。

 例えば、信託の開始後、信託契約の内容に不具合があって、あるいは、信託条項の表記と実態との間に齟齬があり、軽微ではあるが、信託を変更しなければならない必要性を生じるかもしれないという懸念があり、そのため、信託の変更に係る信託変更登記申請を、将来あり得る登記申請であると想定するのであれば、そのような登記申請権を保全するために、信託契約書上の信託変更に関する信託条項を選択し、抽出して、その要件を要約するという形となります。

 不動産登記法103条1項によって、信託目録に記録された信託条項が変更した場合には、受託者は信託変更に係る登記を申請する必要があります。それゆえ、如何なる信託条項に関して、信託変更の登記申請が必要となり得るのか、を理解しておく必要があります。これは、受託者自身の信託事務遂行の善管注意義務を構成するものとなります。